「あのねっ、Gamくん、一つ聞いていいかなっ?」

「どないしたん?」

「え〜っと、・・・『いんこねる』だっけ、ちょっと、よくわかんなかったんだけどっ・・・」

「・・・」

「聞いちゃダメっ?」

「なんや、ミキ、おまえ鳥飼うのか?めっちゃ手間掛かるぞ」

「うんっ、『セキセイインコ』がほしいなっ♪、って・・・、そんなワケないじゃんっ」

「ほんなら、新種の『ネルインコ』とか?」

「へ〜っ、そんなのがあるんだっ、ミキ、知らなかったよっ、・・・ちよっと〜っ、違うでしょっ」

「せやから無線機メーカーに『アルインコ』ってのはあるけど、ミキは免許持ってないよね?」

「そうだねっ、Gamくんって『昔は無線もやってた』って言ってたもんねっ、・・・も〜っ、Gamくんっ!」

「はい!ミキさん、いかがなされたんでしょうか・・・?」

「ぷぷぷっ、『ミキさん』だって、Gamくんのそんな言い方、初めて聞いちゃったよっ♪」

「・・・」

「でも、なんかちょっと変な感じだよねっ、知らない人、みたいな・・・」

「・・・結局、なんの話し?」

「え〜っと・・・、あっ、『いんこねる』のお話しだよっ、Gamくん、誤魔化してばっかりなんだから〜っ」

「ちゅーか、おまえ正体わかってるんやからPDF見たやろ?」

「そうなんだけど、ミキ、あんまりピンとこなかったのっ・・・」

「ウチもPDF以上のことは詳しく話しできへんぞ・・・」

「・・・それじゃぁ、どうして『超合金えっくす』って名前なのっ?Gamくんが勝手に付けたんでしょっ?」

「あの手の金属材料のJIS規格は『JIS G4901』やけど、これのお題目が『耐食耐熱超合金棒』やねん、だからウチが調子に乗って『超合金』とか叫んでるんじゃない、ちゃんとしたJIS規格に基づいての発言やわ」

「じゃぁ、『超合金えっくす』の『えっくす』って、『いんこねる』の『えっくす-750』から取ったんだねっ」

「そうやな、『インコネル』って結構種類あるねんけど、『600』とか『625』、『718』とかあって、その中で『エックス』って付くのは『X-750』と『HX』の2種類やけど、『インコネルHX』は本当は『合金エイチ』のことやから、『耐食耐熱超合金』で『エックス』って言うたら『インコネルX-750』で確定やと思うぞ」

「『合金えいち』って、また、変なのが出てくるんだっ」

「この辺の『ニッケル基合金』って古くからいろんな材料メーカーがいろんな種類を作ってるわ、で、『インコネル』系と『合金エイチ』系はメーカーが違うねんけど、相当材料ってことで他のメーカーも同じ組成の合金を作ってる、せやから『インコネルHX』って名前やけど『インコネル』じゃなくって『合金エイチ・エックス』やねん、元々の名前は開発したメーカーの登録商標になるからな」

「いつものことだけど、難しいお話しになってきちゃうね・・・、それじゃぁ、『いんこねる』って身の回りなんかで使ってたりするのっ?」

「こんなもん、通常はありえんなぁ・・・、PDFの『用途例』やと『ガス・タービン部品、バネ、ボルト、熱処理部品、工具類、押出し用ダイス、原子力部品』って記述やん」

「他のはなさそうだけどっ、ばねとかボルトなんかって・・・」

「いや、せやから通常の環境やと必要ないねん、『耐食耐熱超合金』やから身の回り、日常生活やとそんな性能を要求される場所がない、たとえあったとしてもそれこそ『ステンレス』や『チタン合金』で充分やわ」

「じゃぁ、Gamくんの使い方って、すっごくもったいない、って感じなんだねっ」

「その通り、『超合金』って呼ばれる理由もそこにあると思う」

「それって?・・・」

「『ステンレス』や『チタン合金』では強度が確保できんような高温環境でも使えるから『超合金』と違うんかなぁ・・・、あのな、『チタン合金』って常温ならともかく『インコネル』ほどの高温強度はないぞ、『神戸製鋼』の資料によると『チタン合金は約500℃まで高い強度を有しています』ってことやけど、『超合金エックス』は『816℃までの耐食性、耐酸化性及び高クリープラプチャ強度を必要とする場合に適した』ってなってるやん」

「『チタン合金』より、もっと高い温度でも大丈夫なんだねっ」

「そう、日常生活で816℃とかそんな環境ってありえんやん、せいぜい電気のヒーターとか加熱系?」

「そう言えば、Gamくんって、今年になって新しいヒーター買ったんだよねっ」

電気ヒーター
これはどこのメーカーなのっ
「ダイキン」って家電じゃなくって工業系やわ

「さすがに今年の冬は暖房なしでは耐えきれんかったからなぁ・・・、で、このヒーターの熱源はガラス管に電熱線を封入したんじゃなくって、金属管に封入してるねん、メーカー曰く『耐熱鋼』らしいけど、もしかしたら『超合金』系の金属管を使ってるとか・・・」

「そこまではわかんないんだっ?」

「フツーは家電選びで『なにー!インコネル採用!、よっしゃー、ウチは買うぞー!!』って選び方せえへんやん」

「ぷぷぷっ、それはGamくんだよっ」

「ヒーターにそんな高温強度も必要ないし、一般人は『インコネル』って言うても理解できんと思うからメーカーの謳い文句にならんのと違うかなぁ」

「そうだよね〜っ、ミキだったら、『見た目がかわいい』とかそんなので選んじゃうもんね〜っ♪」

「ははは、そうやな、・・・それ以外やと『内燃機関』かな」

「『ないねんきかん』って・・・?」

「単車やクルマのエンジンやわ、社外品のマフラーやと出口に『インコネル採用!』ってのがあるわ」

「マフラーだとそれだけ温度が上がっちゃう、ってコトなんだねっ」

「いや、それが違うんやな、出口って高温の排気ガスが大気に触れて冷却されるから、排気系では一番温度が低くなる」

「あっ、そう言われてみればそんな感じ・・・、でも、どうして出口なのっ?」

「ウチも知らん!推測やけど、レース車両の排気系には『インコネル』が使われてるらしいから、レース車両と同じ材質、って感じで売ってるのと違うか?」

「じゃぁ、その、・・・機能的には意味がない、ってコトなんだっ、それももったいないじゃんっ」

「・・・マフラーって性能だけじゃなくって、見た目とかそんなんも必要なんやろなぁ、特にカウルなしの単車の場合はパイプ全部見えてるワケやから」

「ふ〜んっ・・・」

「さっき『インコネル』の種類が結構ある、って言うたよね、レース車両がどの『インコネル』使ってるかは知らんねんけど、市販のマフラーは『インコネル600』とかで実は『超合金エックス』よりも強度的には弱いねん、で、純正のマフラーでも『インコネル718』って『超合金エックス』よりもばね性のある『インコネル』を使ってるのがある」

「最初から『いんこねる』のマフラー、ってコトなのっ?」

「パイプじゃないねんけどこんな感じ・・・」

スプリング
この資料はどうしたのっ?
大同特殊鋼から無断でパチってきた!

「なんか、全然わかんないっ・・・」

「テールパイプ2本出しのサイレンサーやねんけど、エンジン特性の要求でこんなややこしいことしてる、エンジンって高回転域やと排気効率を上げて出力を稼ぎたいねんけど低回転域で排気効率が良すぎるといいことない、『低速トルクがない』って感じやねん」

「・・・」

「で、この部品はバルブやねんけど、これでテールパイプを1本閉じてる構造で排気圧力を受けて圧力が高くなるとバルブが開くようになってる、せやから通常の領域ではバルブは閉じてるからパイプ1本でしか排気せずに適度な排気効率で、エンジン回転数が上がって排気圧力が増えるとその圧力に押されてバルブが開いてパイプ2本で排気するから排気効率が上がる、要するに全域に渡る排気効率をこのバルブで制御してるわ」

「そうなんだっ・・・」

「このバルブの開閉を『インコネル718』のばねの弾力でやってるんやわ、ここはパイプと違ってばねやから繰り返し動く、ってことを考えての『インコネル718』採用やと思う、少なくとも出口とかクロスロックよりは技術的に正しい使い方やわ」

「じゃぁ、これはクルマのマフラーだけど、バイクだとこんなのってあるのっ?」

「最近のことは詳しく知らんけど、『ヤマハ』が『EXUP』って4スト用の排気デバイスを採用してたなぁ・・・」

「『えくざっぷ』・・・」

「『EXUP』はサイレンサーじゃなくってエキパイの中間あたりに付いてて、ばねじゃなくってモーターでバルブを動かすんやけど、考え方は一緒やと思う、でもな、『EXUP』はウチが高校の時代の話しで、このクルマのマフラーは20世紀の終わり頃やから15年近く後の話しやわ」

「ふ〜んっ、全然時代が違うんだねっ」

「そうやね、あと、クルマ関連やとエンジンの排気バルブとかターボチャージャーのタービンに『インコネル』を使ってるケースもあるらしいけど、こんなんって全部フツーのクルマには関係ない話しやからな」

「え〜っと・・・、それじゃぁねっ、『超合金えっくす』のPDFには『最初ガスタービンやジェット・エンジン用に開発されました』って書いてたじゃんっ、これだと、Gamくんの得意な飛行機にも結構使われてる、ってコトでいいんだねっ」

「結構かどうかは知らんけど、通常の航空機やとエンジン関係が一番温度高いからなぁ」

「じゃぁ、エンジンだけなんだっ?」

「フツーはな、特殊な航空機になるけど、アメリカの『エックスプレーン』、『ノースアメリカンX-15』って超音速実験機があって、これの最高速度は有人飛行機の世界記録でマッハ6.7、音速の6.7倍にも達したんやけど、この機体の外板が『インコネル』、超音速やと大気との摩擦で高温になるからみたいやわ、当時のマッハ2クラスの戦闘機『ロッキードF-104スターファイター』はアルミ合金の外板やもん、ちなみに『X-15』はこんな航空機・・・」

X-15
これの模型、「超合金エックス」の薄板で作ったら模型マニアってビビるかなぁ、「X-15・インコネル製フルスクラッチ!」とか・・・
そんなのって、できるのっ?・・・

「へ〜っ・・・、そんなに速いと『いんこねる』じゃないとダメ、ってコトなんだねっ」

「そこまで知らんけど、この当時、1950年の終わり頃やと『インコネル』が高温強度に対する最新テクノロジーなのかな?一応、1300度を想定してたらしい」

「え〜っ!1300度って、そんなに温度って高くなるんだっ・・・」

「ははは、あのな、アメリカの温度の単位は『華氏』やぞ、いつもの『摂氏』で言うたらもっと低い、『超合金エックス』の溶融温度は『摂氏』で1393〜1427度やから1300度って溶ける一歩半くらい手前、それやと強度なくなるぞ」

「な〜んだっ・・・、じゃぁ、いつもの温度だと何度くらいになるのっ?」

「『摂氏』704度やわ、で、この704度ってどっかで聞いたことないか?」

「えっ、ちょっとわかんないけど?・・・」

「『超合金エックス』の熱処理温度やんか、あの中途半端な704度とか982度とかって全部『華氏』を『摂氏』に直してるからやねん」

「ふ〜んっ、そうだったんだ・・・、って言っても、ミキ、よくわかんないんだけどねっ♪」

「ほんなら『エックス繋がり』でわかりやすい話し、さっきの続きやけど、『X-15』の機体外板に使われた『インコネル』の種類は『インコネルX』らしいぞ」

「えっ!じゃぁ、『超合金えっくす』って、もしかしてその飛行機の・・・」

「わかりやすい話しやろ、『インコネル』ってその当時は今みたいに種類なかったと思う、で、色々調べてみたんやけど『インコネルX』の組成が判明してな・・・」

 
Ni(+Co)
Cr
Fe
Ti
Al
Nb(+Ta)
Mn
Si
S
Cu
C
インコネルX
15
7
2.5
0.7
1.0
0.7
0.4
-
0.2
-
超合金エックス
70.00以上
14.00〜17.00
5.00〜9.00
2.25〜2.75
0.40〜1.00
0.70〜1.20
1.00以下
0.50以下
0.010以下
0.50以下
0.08以下
資料が違うから表現違うけど、「インコネルX」のデータには+Coとか+Taってなかったけどな
「たんたる」っ・・・?

「だいたいは一緒なんだねっ」

「『硫黄』と『炭素』は不純物扱いやし、それ以外の元素も該当するやん、『コバルト』と『タンタル』の扱いが微妙やけど『超合金エックス』イコール『インコネルX』でいいと思うわ、そしたら、これで『インコネル』とか『超合金エックス』ってだいたい掴めたか?」

「そうだねっ・・・、でも、Gamくんって、そんな材料を使ってたんだっ・・・」

「結局、結果が出んかったから意味ないねんけど、一応、『世界最速有人飛行機の外板にも使われた超高性能素材採用クロスロック!』ってコメントしとくわ、これで結果が出たとしてもサカナ釣りには全然関係ない、技術的にはムダやねんけど、『金属材料フェチ』的にはめっちゃいい感じ!」

「はははっ、最近のGamくんって、そっちの方向ばっかりだよねっ」

「しばらく続くと思うわ、今年のテーマは『アホテク』にしようと思ってるから」

「『アホテク』って?」

「『釣り具ごときに使うのはアホみたいにもったいないテクノロジー』って感じやねん」

「でも、Gamくんって、それをわかってやってる、みたいなっ」

「そう、その通り!そしたら今月号は終わりにして、腹減ったからメシでも喰いに行こうか?」

「うんっ、そうだねっ♪」

・・・・・・

「あーっ!」

「Gamくん、どうしたのっ?そんなに大きい声出しちゃったりしてっ・・・」

「なんやこれー!めっちゃ雪積もってるー!!」

「え〜っ!」

・・・・・・

雪積もってる・・・
今年って結構寒いもんねっ
せやけど、大阪の市内やと、ここまでありえんけどなぁ・・・

「あ〜っ、ホントだ〜っ・・・、でも、やっぱ、雪って積もるとキレイだねっ♪」

「・・・」

「何か言ったっ?」

「ウチのクルマ、夏タイヤやから動かれへん・・・」

「じゃぁ・・・」

「そう、おまえ、今日はこの部屋に泊まり確定・・・」

「え〜っ!ミキ、そんなの、何も用意してないよ〜っ!!」

「なにを用意するねん?」

「いいのっ、色々あるんだからっ、・・・それよりGamくん、変なコトしないでよねっ!」

「なにを言うてんねん、意味わからんぞ?」

「・・・知らないっ!」

(2008/2/10発行)

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