「この時間はケミカルアタックって内容で、樹脂やらゴムとケミカル類との相性について触れてみる」
「今までのオイルやグリスのお話しからすると、エステルベースだったりすると考えないとダメなんだねっ」
「実際のところやな、そーゆーケミカル類の使用によってリールが破壊した事例、って聞いたことある?」
「ネットなんかだと、その手のお話しってあると思うんだけど・・・」
「誰か破壊したリールの写真とかアップしてる?」
「え〜っとっ・・・」
「ないのと違うか?」
「じゃぁ、単なるウワサ、ってコト?」
「そしたらこれ、見てくれる?」
実はイカダリール用途で、ってすでにチヌドラグ化してるし・・・
もう、やっちゃってたんだねっ
「グリッピングレフトだねっ、コレっ」
「この手のダイワのベイトリールはマグ側サイドプレートをダイヤル部分のネジ1本で固定するけど・・・」
サービスカットで拡大したるわ
っ・・・
「コレっ、ヒビが入っているっ・・・」
「中古リールで使い込んでる感じのTD-Zとか買うと高い確率でこのネジの部分にヒビが入ってる、ウチは3コ仕入れて3コともヒビ入ってた」
「ネジを締めすぎてるから、とかじゃなくってっ?」
「これはストレスクラックとかケミカルクラックと呼ばれる現象、ネジの締め付けが原因なのは見ての通りやんね」
「うんっ」
「ただ、ケミカルクラックって、この部分の過大な締め付けトルクによってヒビが入ったのとは違うんよ」
「そうなのっ?見た目、よくわかんないっ・・・」
「締め付けが強かったらここの樹脂の部品はもっともっと変形、白化するわ」
「あっ、そういえば、そんな感じじゃないねっ」
「ネジの締め付けで樹脂には圧縮される力が作用するよね、これにいろんな要素が影響を及ぼした状態が経年的に続くと名前の通りでストレスクラックが発生する」
「Gamくん、それだと、樹脂の部品ってネジで固定できない、ってコトになっちゃわないっ?」
「確かに、ただ単純に圧力を経年的に加えるだけでストレスクラックになったらミキの言う通りで樹脂パーツなんか全滅やんね?」
「そうそう、そうだよっ」
「このクラックの発生を促進する要素としてケミカル類が存在する、このケミカル類によって助長されたヒビがケミカルクラックやねんな」
「あっ、そういうコトなんだっ」
「ここで考慮すべきこと、TD-Zってリールのキャラクターを考えてほしいねんけど」
「それは簡単っ、グリッピングレフトじゃん」
「ミキ、そうじゃなくって、価格帯的なキャラクターをやな・・・」
「あはっ、・・・それだと、いいリール、ってコトかなっ?」
「当時のダイワのハイエンドモデルやん、だから購入層もリールにMAXパフォーマンスを求めるヒトになるよね」
「うんっ」
「そうなると使うケミカル類もパフォーマンスを重視するような選択肢になることが推測されるわ」
「・・・エステルオイルを使ってた、ってコトっ?」
「ただ、このネジの部分ってスプールベアリングからちょっと距離あるやんか」
「じゃぁ、オイルが飛び散るのかなっ」
「だから想像の世界やねんな、ただ、ヒビが茶色なのは油脂の浸透で変色したのかも知れんね」
「考えてみると、それもそうかな、って気もするねっ」
「リール用のエステル油で入手しやすい銘柄か・・・」
「それっ、『F-0』?」
「ミキ、なんか言うた?」
「だからっ、『F-0』だったりするとかっ」
「あーあ、ミキ、言うてしもた・・・」
「Gamくん、どういう意味っ?」
「ウチもええ年やからそこまで言う気ないし、波風立てんとおとなしく生きていたいのに、若いってええなぁ、好き勝手言えるもん」
「あ〜っ、何言ってんのよ〜っ、そんなのGamくんが言わせたんだよっ」
「ウチ、知らんがな」
「もうっ、いつもそうなんだからっ・・・、でもっ、他に簡単に手に入るエステルオイルってあるのっ?Gamくんって色々オイルを仕入れてるから全然参考になんないじゃん」
「一般の釣り人向けのエステル油って、コンプレックスエステルって謳ってた頃の『F-0』くらしいかウチは知らん」
「だったらそれでいいじゃん、Gamくんも結局そう言ってるんだしっ」
「それがえーんか悪いんかはともかく、この件に関しては新品から使い込んでるヒトが現品を確認する、もちろん使ってるケミカル込みでの情報でもない限り推測の世界のままやと思う」
「例えばだけど、『F-0』じゃなくってもヒビが入ってた場合ってっ?」
「それはなぁ・・・、樹脂成形の段階でストレスクラックに至る要素が存在するとかかな?」
「製造の問題、ってコトっ・・・」
「なんしかそーゆーレベルにまで辿ることになりそう、・・・そしたら次、具体的な樹脂ボディの材質、それとケミカルの相性についてコメントする」
「今度はどんな樹脂で作られてるか、ってコトだねっ」
「昔の樹脂ボディやカーボンボディ、それに最近各メーカーさんがウリにしてる新タイプのカーボンボディとかいろいろあるやん」
「最近のはザイオンやCI4+だねっ」
「で、基本的にリールの筐体はポリアミド樹脂な」
「・・・」
「ポリアミド樹脂っていろんな種類があって、みんながよく知ってるのはナイロンやらケブラー、実はどっちもポリアミド樹脂に該当する」
「それっ、見た目、全然違わないっ?ナイロンとケブラーでしょっ」
「ケブラー、わかるんや」
「だって、Gamくん、ケブラーの糸、持ってるし、ナイロンはフツーのラインだもんっ」
「悪いけどそのあたりはやっぱり『高分子のワケわからん話し』ってことで、本題に戻るけど、これとかこのへんのPDFを見てくれる?」
・・・・・・
「Gamくん、コレってどっちもダイワの特許だよねっ」
「この特許文面中にあるように、ポリアミド樹脂に適切な寸度の炭素繊維を適切な重量比率で含有させることによって、金型による射出成形に適した今のカーボンボディのリールが製造されるワケやね」
「それじゃぁ、この特許ってザイオンのコトなんだっ」
「いや、今回この特許で見てもらいたいのはザイオンがどうのこうの、じゃなくって樹脂やんか」
「あっ、そうそう、ポリアミド樹脂だねっ」
「で、用途としてリールを明記しているポリアミド樹脂としては三菱の『レニー』って樹脂が該当するよ」
今は釘なんかも樹脂なんだっ?
ウチは知らん・・・
「あっ、ホントだっ」
「樹脂関連情報サイトの『レニー』の紹介ページにはリールの写真がアップされてた」
ミキみたいに美麗な表面・・・
ちょっと、どういう意味っ!
「スピニングリールが2コと、あとはっ・・・」
「下向き両軸の胴付リールとフライリールみたいなんは落とし込み用?なんしか、これは相当古いリールやね」
「ふ〜んっ」
「スピニングの正体は大森製作所のマイコンってリールやねんな」
「えっ、そんなメーカーってあったのっ?」
「マイコンってウチが中学生の頃のリールな」
「というと、30年前っ・・・」
「このモデルのマイコンは筐体がチタン酸カリウィスカっていうのをウリにしてた覚えがあって、『レニー』にもチタン酸カリ繊維強化グレードが存在するよ、情報サイト曰くリール用の『レニー』はカスタマーグレードらしいから参考程度やけど・・・」
昔のカーボンボディは黒鉛を混ぜたPA+GFの摺動グレードなんか?
黒鉛だからカーボンってコトっ?
「う、うんっ・・・、でも、Gamくん、記憶力は相変わらずすごいねっ」
「それはもうない、ここ何年かでめっちゃ物忘れするようになったからなぁ・・・」
「ぷぷっ、それっ、老化かなっ」
「ははは、その通りやね、・・・で、次は『レニー』の耐薬品特性を見てもらう」
これは結構優秀、でいいんだねっ
ポリアミドやからな・・・
「Gamくん、どれを見ればいいのっ?」
「リール用途のケミカル類やから、下の方にあるエンジンオイルでいいのと違う?」
「じゃぁ、全然問題ないんだねっ」
「本来は一般的なポリアミド樹脂、要するにナイロン・・・、この表でいえばPA66GとかPA6Gとの比較が狙いやと思う」
「じゃぁ、フツーのナイロンでもオイルについては問題ないっ・・・」
「ここでのエンジンオイルは鉱物油のことかな」
「エステルオイルについてはわかんないんだねっ」
「そしたらどうしよかなぁ・・・」
「あっ、何かわかるような資料があるんだっ?」
「うーん、エステル油なぁ・・・、このあたりって正直資料によってばらつきが存在する・・・、
前から言ってるけど、英語の資料、やっぱ、やめにしないっ?
ウチも可能ならそうしたいぞ・・・
これは昭和シェル石油の航空宇宙用グリース、エーロシェルグリースのデータシートの抜粋で、ここでナイロンを見てもらうとエステル油はPoorで評価が低いのはわかるけど、鉱物油と合成炭化水素油もPoor to Goodってことでモノによっては、みたいな評価やん」
「Gamくん、合成炭化水素油はポリアルファオレフィン、コレって基油編でお話ししたけど、樹脂にはよかったはずだよねっ」
「合成炭化水素油の対樹脂性はミキの言うとおり、・・・で、エーロシェルグリースのラインナップを考慮すると、基油が合成炭化水素油とエステル油混合の『エーロシェルグリース33』と合成炭化水素油ベースの『エーロシェルグリース22』やら『エーロシェルグリース23』があるからそれらのことを言ってると解釈したけどな」
「Gamくん的には『エーロシェルグリース33』がPoorで、『エーロシェルグリース22』とか『エーロシェルグリース23』はGoodみたいなっ?」
「ウチの勝手な解釈ではそう、鉱物油は知らんけど・・・、そしたら次の資料はポリペンコってメーカーのナイロン樹脂、『MCナイロン』の耐薬品特性の抜粋な」
エステル類とエステル油の区別がつかん・・・
もっとお勉強、するっ?
「こっちを見ると大丈夫、ってコトだよねっ」
「結局のところ、樹脂や油脂のメーカーさんに言わせると『樹脂と油脂の相性は最終的には顧客が検証して判断』ってことになるわ」
「でもっ、それじゃぁ・・・」
「ここでの顧客は設計サイドである釣り具メーカーのことな、少なくともウチらじゃない」
「あっ、そうなんだっ、・・・使う人が試してみないと、って思っちゃったよっ」
「だからこーゆーややこしい面を考慮すると純正ケミカルの使用、ってのもありやんね」
「釣り具メーカーがテストしてるからだねっ」
「そう、基本的にポリアミド樹脂の耐油性はいいはずやけどなぁ・・・、そしたら樹脂ボディの話しはこれで終わりで次は筐体以外の樹脂パーツについてやけど、ナイロン以外では『デルリン』や『ジュラコン』って呼ばれるポリアセタール樹脂で、これも耐油性はいい部類」
「そのっ、ポリアセタール樹脂以外は何かあるっ?」
「うーん・・・」
「Gamくん、思い浮かばないっ?」
「昔のリールで使われてたドラグワッシャーのテフロンは耐油性抜群、透明樹脂はヤバいかなぁ・・・」
「リールにそんなのってあるっ?」
「社外品のノブでたまに見かけるかな?透明樹脂の代表としてはアクリル樹脂にポリカーボネート樹脂、それにポリフッ化ビニリデン樹脂・・・」
「・・・」
「アクリルとポリカは耐油性悪い、でも、フツーは樹脂の正体なんかわからんよね」
「うんっ、それはそうだよっ」
「だから結局このへんって参考にしかならんわ・・・、そしたら最後、NTNのケミカルアタック評価データを紹介して終わろうか?」
最後が一番わかりやすいねっ
そのためにとっておいた資料な
「コレを見るとABSとPCが弱くって、オイルの種類だとフッ素オイルとポリアルファオレフィンがいいんだねっ」
「まぁ、結局のところリールに使われてる樹脂の場合、資料によってばらつきが生じてるけど、基本的には問題に至ることってそんなにないと思うけどなぁ」
「でもっ、最初に紹介したっ、TD-Zのネジの部分があるじゃん」
「リールの機能的に見ると問題になる部分じゃないと思う、でも、割れてるのって気分的にはイヤやと思う」
「うんっ、あれを見ちゃうと、ちょっと気になるよねっ」
「だからケミカルアタックを考慮するとポリアルファオレフィン、シリコーン油にフッ素油、これは基油編でコメントしたとおりで、あとはメーカー純正ケミカルやけど、これって全然面白くない結論になるなぁ」
「・・・ところでGamくん、樹脂はお話ししたけど、ゴムのお話しってしてないよっ」
「そうや、忘れてた、・・・ゴムの話しは次の時間にしよか」
「ぷぷぷっ」
(2015年5月9日更新)