「ミキ、残念やけど休憩なし、次は『精度編』、ベアリングの精度って予習してきたか?」

「本当のこと言うとねっ、Gamくんが、ここまで詳しい説明するとは思わなかったからっ・・・」

「予想外ってヤツやな、ウチが相手やとよくあることやわ、それで、精度には2種類、『寸法精度』と『回転精度』というのがある、それから『精度等級』ってのがあって、等級がよくなると2つの精度もいいベアリングになる、『寸法精度』は例えば外径10mmのベアリングを作るのにジャスト10mmってワケにはいかんから、『平面内平均外径の寸法差』っていうややこしい表現やけど、許容できる寸法差としてある程度の幅を持たしている、もちろん0.1mmとかそんな大きい数字ではなくてもっと小さいミクロン単位の話しやけど」

「えっ、0.1mmて大きい数字なのっ?」

「ああ、機械部品の精度で0.1mmっていうのはメチャクチャ大きい数字やぞ、一番最低レベルの等級が『0級』で、外径10mmのベアリングの場合は寸法差は8ミクロンしかない、ミリに直すと0.008mmやから、どれだけ小さい寸法かは想像もできんと思う、ミキのその髪の毛とくらべてどうかな?10分の1程度か・・・、さらに『外径不同』という規定もあって、これは『真円度』とでも言えばいいのかな、外径10mmのベアリングでも『直径系列』によってちょっと違うけど、旧ABUで使った『623』のベアリングな、これに至っては6ミクロンやから、どれだけ真ん丸に作っているかぐらいは・・・」

「ベアリングってすごい精密なんだねっ」

「これは最低ランクの『0級』での話しやぞ、もっと精度の高いのんもあって『JIS B1514』では低いのから『0級』、『6級』、『5級』、『4級』、『2級』の順番やから、例えばさっきの外径の寸法差と真円度な、『2級』の場合は両方ともたった2.5ミクロンしかないねんぞ、もちろんこれは外径やから外輪だけの規定であって、さらに内輪も玉も同じような規定がある、だから、精度、精度と簡単に言うだけじゃなくって実際にどれだけ精密かっていうのを、ウチは感じてほしいなぁ、一応、規格表も見といてくれるか、上2つが外輪で、下2つが内輪やからな」

精度等級
ややこしい表現はともかくとして、各精度等級による違いに注目してほしいのだが・・・

「ふ〜んっ、じゃぁねっ、精度が高くなると回転性能も上がったりするのかなっ?」

「基本的にはな、次に『回転精度』の規定やけど、さっきの『寸法精度』は静的精度って感じやったけど、『回転精度』は実際に動かした場合の動的精度の規定やな、回転性能的にはこっちの方が直接的な影響があると思う、それで、ミキは『振れ』ってわかるか?」

「『ふれ』っ?・・・」

「『ブレ』って表現でもいいと思う、内輪回転の場合は外輪を固定して内輪を回すワケやけど、この時に内輪がラジアル方向やアキシアル方向にブレながら高速回転してしまうと抵抗になるとは思わへんか?」

「う〜んっ、そんな感じだねっ」

「『回転精度』はそのブレ量に対する規定のことで、あと、ブレてはいないけど、斜めになって回転するのも『直角度』という規定がある、上の規格表では『横振れ』ってなってるけど、『JIS』が改訂されて『直角度』になってる、で、旧ABU用の『0級』のベアリングやと、内輪の『ラジアル振れ』は最大10ミクロン、外輪の『ラジアル振れ』は最大15ミクロンで『アキシアル振れ』や『直角度』の規定はない、これが『2級』の場合は、内輪も外輪も『ラジアル振れ』、『アキシアル振れ』、『直角度』は全部が最大1.5ミクロンしかない、どれだけ真っ直ぐに回ってるかっていうことやね」

「へ〜っ、『2級』のベアリングってすごいんだねっ、ねぇ、Gamくん、さっそく『2級』のベアリングに交換しちゃおうよっ♪」

「あのな、いくら『2級』のベアリングを使っても、軸とかフレームの穴もそれに見合うだけの高い精度で加工されてなかったら、その性能を最大限発揮することはできへんねんぞ、果たしてリールがそこまでの高い精度で加工されてるんかは初めの方で述べたけど微妙な気がするねん」

「そうなんだっ・・・」

「いや、加工精度とか寸法公差なんかはそれこそメーカーのノウハウで企業秘密やろから、実際にどれだけかっていうのは我々ユーザーにはわからん、想像でしかない、まぁ、それ以前に『2級』のミニチュアベアリングなんか存在せんからな、あれは規格だけの話し、机上の理論ってヤツや」

「な〜んだっ、つまんないねっ」

「ウチは大手のベアリングメーカーにメールして確認したぞ、一般人やとシカトされるかな、って思って工場長の工場を装ってな、ウチは技術部長や(笑)、で、ベアリングメーカーの答えやけど、『ミネベア』はそれでもシカトや、許さん!『NTN』はないって素っ気ない回答で、『日本精工』は過去に『5級』と『4級』は作ったことがあるらしいけど今はない、『ジェイテクト』はな、『5級』ならあるって答えやったから、その下の販売店に在庫を確認したけどこの時点でシカトや、やる気ないぞ、ベアリング屋!」

「はははっ、そこまでやるんだねっ」

「ウチは手段は選ばんからな、まぁ『Koyo』の『5級』のベアリングが存在するのがわかったんで、あとはどうにかして入手しよう、ちなみに、ベアリング屋でリールのベアリングを仕入れる場合『ステンレスのベアリングで呼び番号623の開放型をくれ!』だけ言うと無条件で『0級』を出してくれるわ、だから精度の高いのがほしい場合は必ず指定せんとアカンぞ、あとはな、シカトされてアタマにきたからアメリカから『ABEC7』って等級のベアリングを直輸入したってん、クソっ、ウチは本気やからなー!」

「・・・(あ〜っ、Gamくんの悪い癖が始まっちゃったよっ)

「何か言うたか?」

「えっ、何も言ってないよっ・・・」

「まぁええわ、で、その『ABEC7』って精度は『JIS』の『4級』に該当するねん、さっきは『2級』を取り上げたけどな、『4級』っていうのも規格表を見る限りではたいした精度やねんぞ、、ウチ的にはリールにこんなん必要ないって感じやねんけどな、ホンマにそうなんか実験してケリをつける、ただ、これも使い倒した5001C改やとちょっと疑問やから、やっぱりスピードマスターの出番かな?」

「じゃぁねっ、その精度の高いベアリングってどんな使われ方なのっ?」

「これはベアリングメーカーの配信している資料を見てほしいけど、意味わかるか?」

精度等級
実はベアリングメカーによって見解にバラツキがあったりする
まぁ、用途まではJIS規格で規定されてないからね ・・・

「よくわかんないねっ、だけど、なんとなく精密そうなのが下の方なのかなっ?」

「その通り、ウチも何となくでしか理解できんのもあるけど、どうでもよさそうなのは上やわ、一番下の『ジャイロローター』とか『ジャイロジンバル』は航空機用やな、だから前に述べた極論、『遊びの道具と航空宇宙関連機器』って話しは実際にこんな感じやねん」

「でもねっ、メーカーが『こういう使い方しますよ』って言ってるんだしっ、本当は『2級』のミニチュアベアリングってあるんじゃないのっ」

「ええコト指摘するねぇ、ウチの考えやと『一般人は『0級』で充分や!』って感じか『せいぜい『5級』でガマンしとけ!』なのかも知れんわ、あとは航空宇宙関連やから防衛庁とかが噛んでるのか?それやと国益的にも諦めはつく、ただ、アメちゃんは『4級』相当のベアリングを平気で輸出してることになるから、あの『ABEC7』も怪しいかも知れん、今は防衛庁を装ったら捕まるからな(笑)、あと、趣味の世界でベアリングが頻繁に話題になるのは、ラジコン、ヨーヨー、スケボーやインラインスケートかな?『2級』とかのベアリングの精度を最大限発揮する、という意味ではどれも加工精度は何回も言うけど微妙やと思う、この中ではスケボーとインラインスケートが『ABEC等級』を頻繁に目にするわ、精度に対する着目点は釣り人よりもいいぞ、リールチューンで『精度等級』なんて話しはほとんど見かけんからなぁ・・・」

「え〜っとねっ、その加工精度って話しなんだけどっ、実際のところはどうなのっ?」

「図面がないからわからん、というのが正式回答になる、ただ、これもベアリングメーカーが推奨しているのがある、実際は『はめあい』っていう概念やねんけど、また見てくれるか」

はめあい
さっきと言うてることちゃうやんか・・・

「なんか、またよくわかんない資料だねっ」

「これがベアリングメーカーの推奨する『はめあい』やねんけど、上の精度と同じ『NSK』の資料から抜粋したけど、まず、『ジャイロ』が『5級』と『4級』になってるやんか、その時点でさっきの使用箇所との整合性が取れてないやろ、意味わからんって」

「・・・」

「それも使用箇所の次のページがこれやからな、言うてることがすぐ変わるし、おかしいわ、で、左が軸の『はめあい』で右が穴の『はめあい』やな、まず、これも『寸法精度』と同じで許容できる寸法差というのがあって、この幅が少なくなるほど精度が高いということになる、あと大事なのが『すきまばめ』とか『中間ばめ」やら『しまりばめ』っていう表現、ミキ、リールのベアリングって、ピンとか止め輪で止まってるのを外せば簡単に外れるぞ」

「そうなんだっ」

「これが『すきまばめ』ってヤツやな、厳密に言えば名前の通りに軸やハウジングとベアリングとの間には『すきま』があることになる、ちょっと試しに検証するけど、『0級』の旧ABU用ベアリング外径の寸法差は8ミクロン、これに該当する穴の『はめあい』、右の表を見てみると、『0級』の『すきまばめ』の項目で『内輪回転』の場合の許容寸法差はどれに該当する、ミキ?」

「え〜っとっ、『φD H6』っていうのがそれになるよねっ?」

「もちろんそれで正解や、で、『φD』は穴径を表す記号やからここでは10mmになる、次の『H6』ってのが『はめあい』の寸法許容差を表す記号やねん、で、また見てもらうねんけど、この下の表で『H6』の公差域やと許容差はどうなる?」

寸法公差
今度はまともそうな数字やん・・・

「それは簡単じゃんっ、+9〜0ミクロンが正解だよねっ」

「思いっきり引っ張ったけど、ほんなら、穴が9ミクロン大きくて、ベアリング外輪が8ミクロン小さかったとする、これはいずれも許容差ぎりぎりで合格やねんけど、この場合のベアリングとハウジングのすきまは何ミクロンになる?」

「う〜んっ、17ミクロンだねっ」

「その通りや、『0級』のベアリングで『H6』という公差域の『はめあい』を適用すると、最大で17ミクロンのすきまができることになる、そしたらな、次はミキが軸を検証してみてくれ、最終的には『0級』のベアリングを組んだときに発生する、軸と穴を合わせた最大のすきまを求めること、ちなみに軸の公差域は下を参照やで」

軸公差
これもまともそうやねぇ

「じゃぁ、やってみるね、え〜っと、まず、内径3mmのベアリングの場合、内径の寸法差は上の規格表だと8ミクロンだったよねっ、次に『0級』で『内輪回転』の『すきまばめ』はどれを適用するのかなっ?・・・、あれっ、ねぇ、Gamくん、左の表だと条件が合わないよっ?」

「あれっ、ホンマや、『0級』で『内輪回転』の『すきまばめ』ってないやんけ、ほなら、とりあえず『中間ばめ』でやってみよか」

「うん、わかったよっ、『中間ばめ』だと『φd h5』ってのが使えるから、3mmで『h5』の『はめあい』だと、-4〜0ミクロンだよねっ、ベアリング内径が8ミクロン大きくて軸が4ミクロン小さいから、合計12ミクロンのすきまができることになるよねっ、だから、さっきは17ミクロンあったから、12ミクロンと合わせて最大29ミクロンだねっ!」

「そうやね、この条件『軸h5・穴H6』を適用すると、こんなコトは滅多にないと思うけど、一応、可能性としては最大29ミクロンのすきまができるかも知れん、ってことやん、これが例えば『2級』のベアリングを使ったとしても、この条件やとベアリングが内外径2.5ミクロンずつで5ミクロン、穴が9ミクロンで軸が4ミクロンやから、最大で18ミクロンのすきまができる可能性があるってことになる、ベアリングを外す、スプールを外すってことを考えるとすきまを確保せざるを得んのやけど、あとはメーカーがどれだけのすきまを持たせてるかってコトになる、本来はどっちかを『しまりばめ』でやりたいのかなって気がするけどなぁ」

「そうなんだっ・・・」

「ああ、すきまはガタに通じるからな、ところで、『はめあい』とかを改めて検証してみたけど、『H6』は寸法差9ミクロンあったけど、それ以外の数字を見てみたら5ミクロンとか3ミクロンやんか、それくらいの寸法差、公差で済ませてるのなら高精度ベアリングの能力は発揮できるのかな、って感じがする、だから、リールがどれだけの公差なのかが判明すればいいねんけど・・・」

「でもねっ、フツーは『はめあい』の基準に沿ってるんじゃないのっ?」

「だから、それは図面がないからわからん、って結論になる、ただ、そればっかり言うても先に進まん、考えてばっかりでも仕方ないからウチは実験してケリつけるねん、ホンマに高精度ベアリングをリールに組んで効果があるのかどうかをな、で、設計的には、すきまが大きいのも問題やけど、全部を『しまりばめ』で完全に固定しても、『逃げ』がなくなるからこれも問題やし、このあたりってホンマに設計の難しいところやと思う、メーカーの手腕の見せ所でウチらの及ぶ範囲じゃない、ウチはこうやって数字を並べて能書き言うだけやもんな、なんかイヤになってくるよ・・・」

「えっ・・・」

「・・・」

「ねぇ、Gamくん、どうしたのっ?・・・」

「自己嫌悪や、気にせんといてくれ、次行くわ、今度は、軸とかハウジングのすきまじゃなくて、ベアリングの玉と軌道輪自体にもすきまがある、まず、この内部すきまがないとベアリングは回らない、もちろん大きすぎても問題やから使用用途によって何種類かに区別されてる」

すきま
この表はミニチュアと小径ベアリングの場合に適用ね
ベアリング内部のすきまも意外と大きいぞ
すきまの記号もメーカーによって違うみたいで、これはNSKの場合だ

「これだと、普通のベアリングは『MC3』ってすきまなんだねっ」

「そうやねん、5〜10ミクロンあるから結構大きいよね、これとさっきの『はめあい』のすきまも合計されたら結構なガタになってしまいそうな感じがするとは思わんか?」

「う〜んっ、そうかもね〜っ」

「だから、この内部のすきまを逃がす方法として『予圧』っていうのがある、すきまを逃がすって表現はちょっと違うのかな?何をするのかと言うと、ベアリングの外輪なり内輪に、あらかじめアキシアル荷重を加えておくことやねんけど、この『予圧』をかけられた内輪若しくは外輪はすきまの大きさだけアキシアル方向に押しつけられる、こうすると内部すきまによる振動とか振れとかを防止できるのと、『すきまばめ』の場合はアキシアル方向にベアリング自体がズレるのを規制することもできる、位置決めに近い感じかな?」

予圧
赤の矢印、『予圧』をかけると内部すきまの分だけアキシアル方向に押しつけられる

「それじゃぁねっ、どうやって『予圧』をかけるのっ?」

「ABUを見てくれ、旧ABUやと、スプールキャップにバネ付きの押さえが入ってて、それで外輪に『予圧』をかけてる、超初期の旧ABUにはないと思ったけどな、現行ABUのシャフトレスやとスプール内にあるベアリングの下に入ってる、湾曲した銅ワッシャが外輪に『予圧』をかけてる」

旧ABUの予圧 現行ABUの予圧
もちろん左が旧ABUで、右は現行ABUだ
現行ABUに関してはベアリングと銅ワッシャがスプールの中に組み込まれてる

「この、バネみたいなので『予圧』をかけているんだねっ」

「現行ABUについては銅ワッシャの曲がりが少ないから、旧ABUに比べると予圧量は少ない、メカニカルブレーキを締め込んだ場合に多少かかる程度かな?この『予圧』に関してはダイワやシマノにはなかったはず、もちろん、『予圧』のかけすぎはベアリングに過度の負荷をかけるわけやから、その辺はトータルで判断するべきやと思う」

「じゃぁっ、ダイワやシマノのリールで『予圧』をかけても大丈夫なのっ?」

「全部組んだ状態でベアリングがアキシアル方向に動くんやったら試してみる価値はある、ただ、それは考慮して設計しているはずやと思う、だから現状やと『予圧』はかけてない、必要がないのかな?、それよりも、『予圧』をかけてないリールに関しては、標準よりも内部すきまの小さいベアリングを使ってみてもいいのかも知れん、『すきまばめ』やから『しまりばめ』みたいに『はめあい』の影響で内部すきまが小さくなる、ってコトはないからな」

「やっぱり、色々試してみないとわかんないのかなっ?」

「それが結論やな、一応、『精度編』もこれで終了にするわ、読んでる方も疲れるかも知れんけど、能書き言うてる方はもっとしんどいからなぁ・・・、なんせ長すぎや、もうええわって感じがするけど、あともう一踏ん張りして『リール構造編』に行こう」

「うんっ、そうだねっ」

(2007/3/1更新)

一応、予告編にもどるけどっ、本当は閉じてねっ