「まず、『構造編』に入る前に『メーカー編』でちょっと補足することがあったから、先にそっちから行くわ」

「補足って何かなっ?」

「ABUのベアリングやねんけど、『たぶんSKF』って言ったけど、手持ちのABUを全部バラしたらえらいことになってなぁ」

「もしかしてっ、違ってたなんてことっ?・・・」

「そうやねん、まず、'77・6600Cやけどこれがフランスの『ADR』なんてメーカーのベアリングで、'80と'81の5001Cはベアリングメーカーの刻印じゃなくて『ABU』って刻印が打ってあるけど、自社製?ちょっとわからん、それで、旧ウルトラマグ系のXLとかXLTは実は『ミネベア』で、'86・5001C以降は刻印がない、BigAの5001Cはジャンクやから除外してるけどな」

「え〜っ、Gamくん、間違えてるじゃんっ!」

「ごめんなさい・・・、'81・5001C以外は全部中古やからどうかな、というのもあるけど、旧ウルトラマグ系は3コとも『ミネベア』やから偶然とは思えんし、'77・6600Cもあの変な形状のベアリングは純正品やと思う」

「変な形って?・・・」

「それはあとで説明するわ、今は画像だけ見てほしい」

自動調芯形状
左はXLTのミネベア、右が'77・6600CのADRのベアリング
ADRの外輪形状に注目してほしい
摩耗してこんな形状になったのではなく、ちゃんとした意味があるのだ

「ふ〜んっ、なんか、丸いんだねっ」

「そうやろ、そしたら本題、『構造編』に行こう、ミキ、ベアリングの構造はわかるやろなぁ?・・・」

「うんっ、そんなの簡単だよっ、ちゃんと予習してきたんだからねっ」

「 ホンマかいな、言うてみ」

「え〜っと、軸が入る小さい輪と、フレームにはまる大きい輪があって、その間には小さい玉がいっぱい入ってる、それでっ、中の玉はバラバラにならないように別の部品で支えていて、輪の間で小さい玉が転がってるから滑らかに回転するんだよねっ」

「・・・子供みたいな言い方やけど正解にしとこう、実はな、ベアリングを構成する部品も子供みたいな言い方じゃなくて、ちゃんと『JIS B 0104』で規定されてるねん、まぁ、がんじがらめに縛られてるわ」

「フンっ、ミキは子供なんかじゃないもんっ」

「まぁまぁ怒るなって、軸が入る小さい輪、これは『内輪』っていう名称で、大きい方の外側の輪、これは『外輪』やな、この『内輪』と『外輪』を区別しない場合は『軌道輪』とも呼ぶ」

「言い方が違うだけで意味は一緒じゃんっ、もしかしてっ、Gamくん流の表現だと『いい格好しぃ』なだけじゃないのっ」

「ウチが『ええ格好しぃ』ってか?めっちゃムカつくやんけ、そんなモンは『JIS』を規定した偉いオッさん連中に言うてくれ、で、話し戻すけど、カタカナで表現すると『外輪』は『アウターリング』で『内輪』は『インナーリング』、『軌道輪』は『ベアリングリング』って言うらしいわ、ウチは『アウターレース』、『インナーレース』って思ってたから、これは意外やったぞ」

「ふ〜んっ」

「ミキの言うてた『小さい玉』な、これは『JIS』でも『玉』が正解やねん、もちろんカタカナやと『ボール』になる」

「やったねっ、ミキので正解じゃんっ」

「自慢するなって、正解は『玉』だけやんけ、で、ハンドル軸のローラーベアリングは『ボール』じゃなくて『ローラー』やから『ころ』になるけど、この『玉』とか『ころ』みたいな転がってる部品は『転動体』、『ローリングエレメント』って表現で、『玉』を支えてる部品な、これは『保持器』、『ケージ』とも言うらしい」

名前
これはNTNの資料からの抜粋

「カタカナだと、もっとややこしいんだねっ、やっぱりミキの言い方の方が簡単だよっ」

「なんや、機械設計してるいい年こいたオッさん連中が『ちっちゃい玉』とか『おっきい輪っか』とか言うのか?さらに語尾には小さい『っ』を必ずつけるんや、それはそれで面白いけどな(笑) 、で、みんなが外す『シールド』やけど、これは『JIS』でも『シールド』になってる」

「これは日本語じゃないんだねっ」

「ああ、ベアリングで『盾』なんか言わんやろ、あと、『シールド』じゃなくて『シール』ってのもあるけど、これは何かわかるか?」

「う〜んっ、『シール』だから塞いじゃってたりするのかなっ?」

「おっ、なかなかいい線いってるやん、『JIS』の説明やと、『シールド』は『通常、金属板をプレス加工した環状の保護装置』で『シール』は『潤滑剤の漏れ又は異物の混入を防ぐための、1個または数個の部品から構成された環状の装置』とある」

「ねぇ、Gamくん、意味わかんないよっ」

「『シールド』は簡単やんか、普通のリールのベアリングでいいよ、『シール』については『天使の誘惑・BG7001HS改造編』を見てくれたらいいけど、ゴムの『シールド』のことを『シール』って表現してる、『シールド』は『外輪』に固定されてるけど『内輪』とは接触してない、『シール』は『非接触形シール』と『接触形シール』があって、『外輪』に固定されているのは同じやけど、『非接触形シール』は『内輪』とは接触していないから『シールド』と同じと考えればいい、一方、『接触形シール』は『内輪』に接触してるからベアリングに異物が入らないようになってるけど、『内輪』とも接触してる分だけ回転抵抗になるよね」

シールド 非接触形シール 接触型シール
今度はNSKの資料で、左からシールド、非接触形シール、接触形シールの順番
ZZ1とZZはシールドの固定方法の違いでZZ1がはめ込み式、ZZは止め輪で固定している
ZZは各メーカー共通だけど、ZZ1とか接触型や非接触形はメーカーによって呼称が違うぞ

「それだと理解できるねっ」

「ああ、かしこい人ってなんでこんな難しい表現するのかな、って感じやな、ミキみたいな頭悪い人間のことをもっと考えてあげんと・・・」

「あ〜っ、またミキのこと、バカにしてるんだからっ!」

「そんなつもりはない、ただ、難しいことを難しく表現するのは簡単、そやけど、難しいことを簡単にわかりやすく表現するか、これが頭のいい人の仕事と違うやろか?ウチもできるだけそんな感じで、とは思ってるけど、これがなかなか上手くいかんねん、ウチも脳が弱いからな、ゴメンな」

「・・・」

「ちなみに、BG7001HSの『シール』は50倍に拡大して見たら『非接触形』になってた、これ以外で述べることは、ベアリングに対する力の掛かり方、方向についてやけど、軸に垂直な方向と軸に平行な方向の2種類があって、垂直なのを『ラジアル方向』、水平なのを『アキシアル方向』って言い方をする、普通のベイトリールの回転の力は『ラジアル荷重』な、これも覚えといてほしい、このあといっぱい出てくるぞ」

「Gamくん、それじゃぁ、斜めに力が掛かった場合はどうなるのっ?」

「斜め方向の荷重は『ラジアル荷重』と『アキシアル荷重』に分力すればいい、このレベルやと義務教育で習うはずやぞ」

「あっ、そうだったね」

「ちなみに『アキシアル荷重』を受けるためのベアリングは『スラストベアリング』やねん、『スラスト方向』って表現も間違いじゃないけど『JIS』やベアリングメーカーが『アキシアル』って表現してるから、これはどうしようもないわ、あと、重要なのが、ベアリングが回転する場合は『内輪』と『外輪』のどちらかは固定で、どっちかが回転する、それで、現行ABUのシャフトレスは『内輪』が固定されてて『外輪』がスプールと一緒に回転するやんか、この場合を『外輪回転』、普通のスプールベアリングは『外輪』が固定で『内輪』がシャフトごと回転するから『内輪回転』って呼んでる、これも覚えといてほしい、で、ベアリングは『内輪回転』が基本になってるみたいやわ」

「それじゃぁ、ABUのシャフトレスって設計的には良くないのっ?」

「いや、『外輪回転』があかん、っていうワケじゃない、設計的にはベアリングのサイズとかで『内輪回転』できない場合は仕方がないと思う、ただ、回転体の重さって考えでは『外輪回転』は不利になる、『外輪』の方が大きいしから重いし、外側やから回転モーメントでも不利になる、でも、それ以上のメリットがABUのシャフトレスにあれば別に問題ないやん、これはまたあとで詳しく突っ込むことにしよう」

「色々考えないとダメなんだねっ」

「そうやね、一つのことだけ捉えるんじゃなくて、考えることはいっぱいあるよ、ほんなら『構造編』はこれくらいにしとこう、次はなんやったっけ?」

「Gamくん、覚えてないのっ、次は『材質編』って言ってたじゃんっ」

「だから脳が弱いって言うてるやん、今までは簡単やったけど、次はちょっと難しいから覚悟しとけよ!」

「ふ〜んっ、そうなんだっ、でもっ、ミキもがんばるからねっ!」

(2007/2/28加筆修正)

一応、予告編にもどるけどっ、本当は閉じてねっ